はじめに
Magento(マジェント)には複数店舗(複数テナント)機能があるため、モール型ECサイトや、マーケットプレイス型ECサイトのプラットフォームを実現可能かというお問い合わせを大変多くいただいております。
先に回答を明らかにしますと、Magentoの複数店舗機能は、モールやマーケットプレイスサイトを実現するための機能ではありません。
Magentoの複数店舗(複数テナント)機能は1つのMagento環境上に対し、1事業体(1販売者)が複数のECサイトを運営するための機能であり、複数の販売者が一つのプラットフォーム上に商品登録し、またプラットフォームから発生した注文を各販売者がそれぞれ処理する機能は基本機能では搭載されておりません。
本記事ではMagentoの複数店舗の考え方や、モール型ECサイト・マーケットプレイス型ECサイトとの違い、Magentoでモール型ECサイトや、マーケットプレイス型ECサイトを実現する方法について解説します。
モールサイト・マーケットプレイスサイトと、Magentoの複数店舗(複数テナント)の違い
モールサイト、マーケットプレイスサイトの概念
まず一般的なモールサイト、マーケットプレイスサイトの概念を図にしました。

モール・マーケットプレイスの考え方
このように店舗と顧客の間にプラットフォームが位置し、両者の操作が集約される概念になります。
Magentoの複数店舗(複数テナントの概念)
一方Magentoの複数店舗の概念をご覧ください。

Magentoの複数店舗・複数テナントの考え方
このように、Magentoが複数のECサイト(店舗・テナント)を動作させており、各ECサイトに対して、顧客がアクセスする形です。
顧客から見た場合、同じMagento上でそれぞれのECサイトが動いているかどうかは気づきません。
Amazonや楽天などに代表されるモール・マーケットプレイスを普段の生活でよくご利用になられていると思いますので、モールとマーケットプレイスの概念は理解しやすいと思いますが、Magentoにはなぜこのような機能についてはやはり普段の生活では見慣れないため、メリットが理解しにくいところがあるかもしれません。
Magentoの複数店舗(複数テナント)の用途やメリットについて
Magentoの複数店舗(複数テナント)はどのようなケースでの活用可能かいくつか例を挙げます。
- 複数ブランド・多事業展開における活用例
- 1企業が多くのブランドや事業を運営するコングロマリット形態とも言える状況の場合、各ブランドや事業ごとにECサイトを用意するケースがあります。
Magentoのように複数店舗の環境を実現していないプラットフォームの場合、各ブランド、各事業ごとにECサイトのプラットフォームを用意する必要があり、サイト単位手の運営コストが生じます。
またサイトの導入タイミングや部署・部門が異なると、プラットフォームの環境もばらけるなど、環境ごとのオペレーションも異なるものになり、こうなると基幹システムや配送システム、商品管理システムが各ECプラットフォームごとにデータの取り扱いを合わせる必要があるなど、ものすごく煩雑な運用になるはずです。
運営担当者も異なるプラットフォームの運営を習得する必要があり、教育コストが増大します。Magentoの場合、異なるブランド・事業のサイト全てを1つのMagentoで運営できますので、サイトごとにプラットフォームを用意することによるデメリットが生じません。 - 多国籍企業における活用例
- 日本の国内企業の多くは海外での売上が大きく、事業規模によっては現地法人を立ち上げ事業を営むケースが多くあります。
こういった規模の事業に対し、ECサイトでの販売も行う場合、決済通貨の問題が生じます。
例えば日本国内向け販売においては当然日本円決済になるため、商品の値段も日本円、入金も日本円です。
しかし、アメリカ現地法人でも利用するとなる場合、現地法人で売上を立てるケースが多く、その場合の決済通貨は米ドルになります。
Magentoのように複数店舗の運転ができないプラットフォームの場合、決済通貨・商品価格をいずれか一つの通貨で設定しなけばいけませんので、Shopifyなど多通貨をうたうプラットフォームだとしても、最終的に取引上計算する通貨は1つのみです。
このためMagentoのように複数店舗の運転ができないプラットフォームでは、各国現地法人ごとにサイトを用意する必要性が生じます。
このケースでもやはり複数ブランド・多事業展開におけるプラットフォームの運営における問題が生じますし、各国現地法人でも取り扱う商品が同じであるにもかかわらず、商品情報のメンテナンスはそれぞれのサイトごとに行わないといけませんし、顧客情報もばらけるため、全世界単位での全体的な分析も困難です。Magentoの場合、Magento上で動作するサイトの決済通貨をそれぞれのサイトに対し異なるものを設定できますし、反対に商品情報は共通のデータを活用できます。
配送拠点が各国にある場合には、複数配送拠点の機能があるので、例えば日本には在庫100個、アメリカには在庫200個、中国に在庫50個、と管理し、また販売された国の倉庫の在庫を引き当てる、ということが可能です。
Magentoでモール・マーケットプレイスサイトを実現する例
ではMagentoではモールやマーケットプレイスの実現はできないのか?ということについて詳細を解説したいと思います。
結論からすれば、「できなくもない。きちんと作れば最高のモールやマーケットプレイスの運営も可能になる。」という回答になります。
MagentoはExtension(エクステンション)という名称で、サードパーティ製ソフトウェアをプラグインすることができ、いくつかMagentoをモールやマーケットプレイスとして動作するものも販売されています。
しかしこの方法でモールやマーケットプレイスを実現した場合、もともと1事業者が販売するためのプラットフォームで、顧客向けのアクセスに特化した作りになっていることから、複数の店舗で同時に商品登録を行うような処理は想定されていないため、性能上の懸念が考えられます。
大規模になると同時に配送手続きやクレジットカードへの請求処理を行うケースでもやはり性能上の懸念が考えられます。
Magentoでモールやマーケットプレイスを実現する理想論
Magentoでモールやマーケットプレイスを実現すると、EC運営の管理側業務の性能が多重化されることによる性能懸念について述べました。
このためMagentoに対し直接的に管理業務を行わなくていい形を取れば、性能上の懸念の全くないモールやマーケットプレイスサイトの実現が可能です。

Magentoでモール・マーケットプレイスを実現する例
この図のように、モールやマーケットプレイスの店舗(テナント)が利用するメイン業務にあたる商品登録や注文管理を行う専用のシステムを用意します。
これらのシステムは非同期でMagentoに対し、1本の処理で、Magentoに反映することで、Magento側には多重の商品登録や注文処理が発生しなくなります。
Amazonでも商品登録を行うと最長15分待たなければ新規に登録した商品や、商品の変更が反映されないのも同じ理由だと考えています。
モールやマーケットプレイスというプラットフォームは、顧客側のフロントエンドの性能だけでなく、管理業務側・バックエンド側の性能も要求されるため、これを一つのシステムで動作させようとすることは現実的ではないということです。
モールやマーケットプレイスの運営は、わずかな販売手数料が収益になるため、前提として相当な数のテナントと顧客が必要で、必然的に大規模になると思います。
エクステンションで一応動作させることもできますが、実際の運営どしては、この図のような構成を取り実現するべきです。
モールやマーケットプレイスを実現できる他のプラットフォームもありますが、その多くは単一事業者が販売するプラットフォームをカスタマイズしてモールやマーケットプレイス対応させているものが大半ですので、ここまで性能上の懸念を考慮されているかどうかについては、導入前によく確認してください。
Magentoでモールやマーケットプレイスを実現する意味
これまで説明した通り、Magento単独ではモールやマーケットプレイスの実現はできないのに、無理矢理それでもMagentoを用いて中間的なシステムも用意して実現する意味があるのか?ということに行き着くと思います。
その答えは「意味がある」と考えています。
その理由を解説します。
Magentoでモールやマーケットプレイスを運営するメリット
- 大量商品・大量顧客アカウントに対する性能が優秀
- Magentoはもともと数百万点、数千万点の商品SKUを登録しても速度劣化しない性能が備わっています。また顧客アカウント数に関しても当社で検証した限りでは、1200万のユーザーアカウントを登録しても、ログインや画面遷移など一切の速度劣化がありませんでした。
モールやマーケットプレイスはこれまで述べた通り、多くのテナントと多くの顧客をマッチングすることが前提のサービスになりますので、この性能を標準で担保できているのはMagentoの強みです - 強烈な販売能力
- テナント用の注文管理や商品管理は別のシステムに実装されるため、Magentoは素の状態とも言えます。このためMagento本体が持つ強烈な集客力やコンバージョンを生み出す販売力もそのまま生きています。
さらに世界各国の数千にも上るExtensionや、サードパーティツールの組み合わせを用いれば、低コスト・短納期で、世界トッププラスの販売能力が搭載されたモールやマーケットプレイスを実現できます。
スクラッチでモールやマーケットプレイスをつくれば、これらの機能を実現することも全てスクラッチ開発になり、とても出ないけれどもMagentoに追いつくことはできません。
以上のように、最終的にはMagentoの強みをフルに活かせば、モールであれマーケットプレイスであれ、当然単一事業者の展開するECサイトであれば、世界最高峰のECサイト運営が可能です。
この意味で、モールやマーケットプレイスの実現の際にも、要点を理解の上で実現するのであれば、現状ではMagentoによる実現がベストということになります。